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【2040年】新たな地域医療構想とは?病院・クリニックが今すぐ着手すべき経営戦略を徹底解説


はじめに

2040年に向けて、日本の医療提供体制は大きな転換点を迎えます。その羅針盤となるのが、2015年から続いてきた地域医療構想を全面的にアップデートした「新たな地域医療構想」です。制度面では、令和7年(2025年)に成立した改正医療法(令和7年法律第87号)によって位置づけが整理され、国は令和8年(2026年)に策定ガイドラインを示しました。これを踏まえ、各都道府県は2026年度から順次、地域ごとの構想づくりを本格化させています。

従来の地域医療構想が「2025年」「病床」「入院医療」に焦点を当てていたのに対し、新たな構想は「2040年」「医療機関全体」「外来・在宅・介護連携・人材確保まで」を射程に入れた、まったく別物と言ってよい枠組みです。そして、その帰趨は各医療機関の主観的な主張ではなく、客観的な診療実績データによって決まっていきます。

本記事では、公表されているガイドラインや検討会資料をもとに、「何がどう変わるのか」「自院はどの機能を担うべきか」「いつまでに何を決めなければならないのか」を、病院・クリニックの院長・事務長の皆さまに向けて、経営目線で整理します。結論から申し上げれば、現状維持は選択肢になく、2028年度という明確なタイムリミットまでに自院のポジションを決める必要があります。

本記事のポイント(3行サマリー)

  • 評価単位が「病床」から「医療機関全体(5つの医療機関機能)」へ移行し、外来・在宅・介護連携まで対象になる。
  • 遅くとも2028年度末までに、地域の協議で各医療機関が2040年に担う機能と必要病床数が決まる。
  • 必要病床数は病床削減を織り込んだ推計となり、データに基づく「勝てる領域の見極め」が経営の生命線になる。

1. 新たな地域医療構想とは(2025年の構想からの「3つの転換」)

新たな地域医療構想とは、2040年頃とその先を見据え、地域の医療提供体制全体の将来像を描き、医療機関の機能分化・連携・再編・集約化を進めるための計画的枠組みです。従来の構想からの変化は、大きく次の3点に整理できます。

転換①:「病床」から「医療機関全体」の評価へ

これまでは病棟(病床)単位で4つの病床機能を報告する仕組みが中心でした。新たな構想では、これに加えて「医療機関機能」報告が導入され、施設が地域で果たす総合的な役割そのものが評価対象になります。「ウチは急性期病床だから急性期病院だ」という単一病棟ベースの主張は通用しにくくなり、外来・在宅・救急・人材の実態を含めた“医療機関としての姿”が問われます。

転換②:入院医療だけでなく、外来・在宅・介護連携・人材確保まで

新たな構想は、入院医療にとどまらず、外来医療・在宅医療・医療介護連携・医療従事者の確保までを対象に広げます。これに伴い、新たな地域医療構想は従来の「医療計画の一部」から、医療計画の“上位概念”へと位置づけが引き上げられました。

転換③:自院内の最適化から、地域内の再編・集約化へ

人口減少により、多くの地域は一つの医療機関の努力だけでは完結できなくなります。統合・ダウンサイジング・役割分担といった、地域全体での再編・集約化が前提の設計思想へと変わります。

2. なぜ「2040年」なのか

なぜ、わざわざ構想を作り替えるのか。背景には、2040年前後に顕在化する「需要」と「担い手」のねじれがあります。

  • 高齢者救急・在宅ニーズの急増:85歳以上人口が2040年頃にピークに近づき、医療と介護の複合ニーズを抱える高齢患者が増加します。
  • 生産年齢人口の減少:医療を支える働き手が減り、医師・看護職員の確保が一層困難になります。特に診療所医師の高齢化も進んでいます。
  • 急性期需要の相対的な縮小:多くの地域で、資源を多く要する手術等の需要は減少に向かい、従来型の「ベッド数ベースの急性期」は供給過剰に転じていきます。

つまり、「限られた人材で、増え続ける高齢者の生活を支える」という難題に、地域全体で応えなければならない。この構造変化に対応するため、国は地域医療構想の実現・医師偏在対策・働き方改革を三位一体で進め、医療DXやタスクシフト/シェアによる生産性向上を前提に据えています。従来の「治す医療」に加え、「治し支える医療」をどう地域で分担するかが、構想の核心です。

3. 医療機関を評価する「5つの医療機関機能」

新たな構想では、地域で確保すべき機能を5つの「医療機関機能」として整理します。経営者は、自院の資源を客観視し、このマップの「どこに旗を立てるか」を早期に決断する必要があります。

  1. 急性期拠点機能:手術・救急など医療資源を多く要する症例を集約する、地域の中核。
  2. 高齢者救急・地域急性期機能:高齢者救急の最大の受け皿。入院早期からのリハビリと退院支援で在宅・介護へつなぐ。
  3. 在宅医療等連携機能:24時間対応の在宅医療、介護施設のバックベッドなど、地域包括ケアの要。
  4. 専門等機能:集中的なリハビリ、中長期の入院医療、有床診療所の地域密着診療、特定診療科への特化など。
  5. 医育及び広域診療機能:大学病院本院などが担う、医師の派遣・育成や広域的な観点の診療。

このうち①〜④は主に構想区域ごと、⑤は都道府県をまたぐ広域的な観点で確保する機能と位置づけられます。注意したいのは、複数の機能を“またぐ”とリソースが分散することです。特に、急性期拠点機能と高齢者救急・地域急性期機能は、性格が異なるため同一医療機関で両立させる想定ではありません。どちらの土俵で戦うのかを、まず定める必要があります。

4. 勝負どころ①:急性期拠点機能の「集約」と厳格化

急性期拠点機能は、「誰もが名乗れる」ものではなくなります。症例と医師の「選択と集中」が進み、要件は厳格化されます。

  • 配置の目安:おおむね人口20万〜30万人につき1か所程度を目安に確保。人口の少ない地域でも、地域に必要な拠点は維持されます。
  • 評価の軸救急搬送件数、全身麻酔手術件数、緊急手術件数などの診療実績が基本。加えて、5疾病6事業や災害・新興感染症の初期対応といった役割、施設の状況なども総合的に考慮して選定されます。
  • 人材の要件:大学病院本院などとの連携による外科医・麻酔科医の確保と、持続可能な働き方の実現が前提になります。

ここで押さえたいのは、「救急搬送件数が多い“だけ”では拠点になれない」という点です。外科系症例の集積度と、麻酔科医をはじめとする人的リソースの厚みが、客観データでシビアに判定されます。中途半端な急性期は、集約の対象になり得ます。

5. 勝負どころ②:高齢者救急・地域急性期機能という主戦場

急性期拠点から“降りる”ことを「都落ち」と捉えるのは、致命的な経営上の誤解です。2040年に向けて最も需要が伸びるのは、むしろ高齢者救急・地域急性期機能の領域だからです。

この機能は、増え続ける高齢者の救急搬送を受け止め、入院早期からのリハビリテーション包括的な退院支援を行い、患者を在宅(自宅復帰)や介護施設(ポスト・アキュート)へとつないでいく、地域医療の“主戦場”です。多くの中小病院・ケアミックス病院にとって、経営資源を集中させるべき現実的かつ将来性のある選択肢となります。

制度面でも、この機能の受け皿となる病床区分の考え方が見直されています(後述の第8章「包括期機能」を参照)。「急性期のプレイヤーが多すぎる地域で消耗戦を続ける」より、「高齢者救急の受け皿として明確にポジションを取る」ほうが、勝率の高い選択になり得ます。

6. 地域を「面」で支える:在宅医療等連携機能

在宅医療等連携機能のキーワードは、「点(単独施設)から面(地域ネットワーク)へ」です。

診療所や中小病院が、訪問看護ステーション、訪問歯科・訪問薬剤管理、後方支援病院(バックベッド)、介護サービス施設などと連携し、地域として「24時間提供体制」を構築できるかが評価されます。ICTやオンライン診療(D to P with N)、遠隔モニタリングを活用した効率化や、介護施設の協力医療機関としての役割も、この機能の重要な要素です。

ここで強調したいのは、「自院だけで24時間365日を抱え込む必要はない」という点です。むしろ、地域の医療・介護資源とネットワークを組み、“面”として連携機能を果たせるかが問われます。単独での抱え込みは、限られた人材を疲弊させ、持続可能性を損ないます。

7. 構想区域(医療圏)の再編・広域化で競合が変わる

新たな構想では、戦う「土俵」そのものが再設定されます。

現在の二次医療圏は、その約半数が人口20万人未満とされ、人口減少下では単独で医療を完結できないケースが増えます。そこで、隣接する区域との統合・広域化により、人口20万人以上を目安に構想区域を再設定する方向が示されました。都道府県をまたぐ連携も視野に入ります。さらに、次期(第9次)医療計画の時期には、二次医療圏を新たな構想区域と原則一致させる整理が進む見込みです。

経営上のインパクトは小さくありません。医療圏が広がることで、これまで競合していなかった別エリアの大型病院と「拠点」の座を争うことになります。自院の立ち位置は、旧医療圏ではなく、“広域化後の新区域”の中で相対評価される。この視点の転換が不可欠です。

8. 必要病床数の新しい前提

新たな構想の必要病床数は、「病床は減る」ことを前提に推計される点が最大の特徴です。経営計画に直結するため、特に丁寧に理解しておきたい領域です。

データの刷新(NDBの活用)

医療需要の推計の基礎が、従来の「患者調査」から、レセプトを集約したNDB(ナショナルデータベース)へと切り替わります。より実態に近い受療状況が反映されます。

「回復期」から「包括期」へ

病床の機能区分は引き続き4区分としつつ、従来の「回復期」に代えて「包括期機能」が新設されました。包括期は、回復期リハビリに加え、高齢者等の急性期患者を受け入れ、入院早期からの治療とリハビリ・栄養・口腔管理を一体的に行い、早期の在宅復帰を包括的に支える機能を担います。まさに高齢者救急の受け皿です。

高齢者救急を「急性期5割・包括期5割」で見込む

75歳以上の高齢者の急性期ニーズについて、おおむね半分を急性期、半分を包括期で対応すると見込んで需要を推計する考え方が示されています。

削減見込みを推計に反映

病床数の適正化を促す支援事業による削減見込み分を、あらかじめ推計に織り込みます。国全体として、過剰と見込まれる病床の適正化が政策的に後押しされている構図です。関連して、病床削減を後押しする給付金「病床数適正化緊急支援事業」も措置されており、ダウンサイジングを検討する医療機関にとっては要チェックの制度です。

病床稼働率は「コンバーター」であって運用目標ではない

必要病床数は、機能区分ごとの推計患者数を病床稼働率で割り戻して算出します。この稼働率は、実態データを踏まえて見直しが検討され、包括期を中心に医療DXによる効率化分を織り込む方向が示されました。重要なのは、この数値は「患者数を病床数へ換算するための計算上の係数」であり、日々の経営で目指すべき稼働率の目標値ではないという点です。数字の一人歩きに注意が必要です。

定期的な見直し

必要病床数は固定されず、将来推計人口や医療計画のタイミングに合わせて、2030年・2036年に見直される予定です。

9. タイムリミットは「2028年度」

新たな構想は、待っていれば誰かが決めてくれるものではありません。協議はすでに始まっています。

〜2027年度上半期:現状把握と区域の設定

データ分析、人口推計、患者動向調査を行い、構想区域の見直し・広域化を決定します。

〜2028年度末(デッドライン):担う機能の決定・合意

遅くとも2028年度までに、急性期拠点機能を担う医療機関の具体名を含め、各医療機関が2040年に担う機能と必要病床数が、地域の協議で最終決定・合意されます。ここが最大のヤマ場です。

2029年度頃〜2035年度頃:計画策定と成果の確保

次期(第9次)医療計画の策定を経て、2040年を見据えた提供体制を確立していきます。

なお、現行の地域医療構想は移行期にも継続し、新たな構想は円滑な移行を図りながら順次取組が進みます。「2027年になってから動く」のでは、地域の議論に乗り遅れます。経営層が今すぐ着手すべきは、次の3点です。

  1. データによる自院の「現在地」の客観的診断:NDB・DPC等の実績で、5つの機能のどれに該当するかを冷徹に自己評価し、強みのない領域からの撤退準備を進める。
  2. 広域化を見据えた「近隣施設との対話」:トップダウンの調整を待たず、統合の可能性がある隣接エリアの病院・クリニックと、水面下で役割分担の協議を始める。
  3. 「捨てる勇気」とポジショニングの早期決断:急性期拠点に残るのか、高齢者救急へ舵を切るのか。限られた人材を一点に集中させ、曖昧な「全方位外交」から脱却する。

これらの検討と、地域医療構想調整会議でのプレゼンス向上を、いかに早く始められるかが、2040年の生存確率を左右します。自院の現在地の診断や地域協議への備えは、診療実績データに基づく経営の観点から進めることをおすすめします。

10. よくある質問(FAQ)

Q. 「新たな地域医療構想」と、これまでの地域医療構想は何が違うのですか?

対象年限が2025年から2040年頃へと変わり、評価の単位が「病床」から「医療機関全体(5つの医療機関機能)」へ広がった点が最大の違いです。さらに、入院医療だけでなく外来・在宅・介護連携・人材確保までを対象とし、医療計画の上位概念に位置づけられました。

Q. うちは急性期病床を持つ中小病院です。急性期拠点機能を目指すべきですか?

一概には言えません。急性期拠点機能は人口20万〜30万人に1か所程度へ集約が進み、全身麻酔手術件数・緊急手術件数などの実績と、外科医・麻酔科医の確保が厳しく問われます。むしろ多くの中小病院にとっては、需要が伸びる高齢者救急・地域急性期機能へ明確にポジションを取るほうが、現実的で将来性のある選択となるケースが少なくありません。自院の診療実績データに基づく客観的な診断が出発点です。

Q. 何を、いつまでに決めなければならないのですか?

遅くとも2028年度末までに、各医療機関が2040年に担う機能と必要病床数が、地域の協議の場で決定・合意される見込みです。逆算すると、2026〜2027年度のデータ分析・区域設定の段階から議論に参加していることが重要になります。

Q. 必要病床数はどのように決まりますか?病床は減るのでしょうか?

機能区分ごとの推計患者数を病床稼働率で割り戻して算出します。新たな推計は、NDBデータの活用、受療率低下や病床機能分化などの「改革モデル」、そして病床適正化の削減見込みを織り込むため、総じて病床は減る方向で設計されています。必要病床数は2030年・2036年に見直される予定です。

Q. 自院だけで在宅の24時間対応を続けるのは負担が大きいのですが?

在宅医療等連携機能は、自院単独での抱え込みを求めるものではありません。訪問看護・後方支援病院・介護施設などと連携し、地域として24時間提供体制を“面”で構築できるかが評価されます。ネットワーク化とICT活用による効率化が鍵になります。

11. まとめ

新たな地域医療構想は、2040年に向けて地域医療の「盤面」そのものを描き替える、大きな制度改革です。院長・事務長の皆さまにお伝えしたい要点は、次の3点に集約されます。

  1. 評価軸が「病床」から「医療機関全体」へ変わる。5つの医療機関機能のどこに自院の旗を立てるかを、外来・在宅・人材まで含めた実態で判断する必要がある。急性期拠点と高齢者救急・地域急性期は“またげない”前提で、土俵を選ぶ。
  2. 勝負はデータで決まり、期限は2028年度末。NDB・DPC等の客観データで「勝てる領域」を見極め、広域化後の新区域での相対評価を意識して、地域の協議に早期から参画する。
  3. 必要病床数は「削減」前提。目先ではなく中長期で判断する。ダウンサイジングや機能転換を先送りするほど、地域協議で不利になりやすい。病床削減支援事業の活用も含め、将来の再編構想と整合させて意思決定する。

2040年の地域医療は、変化を待ち受ける者ではなく、自らポジションを取りにいく者が形づくります。自院の「現在地」の診断、担うべき機能の選定、地域協議への臨み方、そして病床再編・ダウンサイジングの是非。こうした経営判断は、医療機関ごとに最適解が異なります。

当事務所では、診療実績データに基づく経営支援事務長代行サービスクリニック開業・再編の支援を通じて、2040年を見据えた戦略づくりを実務目線でサポートしています。自院のポジショニングや地域調整会議への備えについて個別にご相談されたい場合は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

※ 本記事は、厚生労働省が公表する「地域医療構想策定ガイドライン」および新たな地域医療構想等に関する検討会・関連検討会の資料等をもとに作成しています。制度の詳細や数値・時期は、今後の政省令や地域ごとの協議により変更される場合があります。実際の意思決定にあたっては、最新の通知等および各都道府県の運用を必ずご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

【執筆者情報】(株)医療経営支援事務所 代表取締役 竹森 健太

2016年、特定医療法人谷田会谷田病院に入職後、病院経営の実務を体系的に学びながら、事務部門の業務改善に取り組み、組織運営力の向上に寄与。2020年より医療機関向けコンサルティング会社である㈱医療環境総研、NPO法人病院経営支援機構、医療経営支援事務所に所属し、50施設以上のクリニックや病院、介護事業所で経営・開業支援、事業承継、建替えを手掛ける。複数のクリニックで事務長を代行し、院内業務の安定化やスムーズな経営改善が高く評価をいただいている。また、医療機関や介護事業所の経営課題を解決するためのホームページ制作やシステム開発にも従事し、口コミ対策システムや医療介護マッチング「つなぐ」等、これまでに100事業所以上の支援実績を有する。